てはいなかった。あわただしく作られた軍用市は機能を喪失し、川に沿った上《かみ》、下《しも》の町は、機械的に一本の道路で貫かれているだけで、麻痺に陥った。この五十戸あまりがかたまっている部落に今は新しい名がつけられている。
「後家町」
「後家町」の裏の新道を、工廠の方向から時々トラックが走った。ドラム罐をつんでいるのもあるし、材木を積んでいるのもあり、時には山の方へ疎開させた家財道具が逆もどりして来るトラックもあった。しかし、そのどれもが、直接「後家町」に縁はなかった。何故なら、最後のドサクサの間にうまいことをしてドラム罐をどこかへうつしていたり、工廠用の木材を流用する役得をせしめたりしたのは、みんな、工廠関係の男たちであったから。そういう男たちがいる限り町の名は、「後家町」と呼ばれたりはしないのであるから。
 母とつや子とが直次をいたむ口調のうちには、直次さえいたならば、時勢の激変でこぼれ出した利得を、この門口から素通りさせてはおかないものを、という思いがはっきり汲みとれた。
 石田の家は、息子三人に父親、働くものも男ばかりという生計であった。その中心に、登代が永年の借金暮しを辛棒し破
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