た。新しく出来た軍事市は、巨大な工廠を中心としていて、近隣の農村の若い男女、少年たちを総動員した。朝と夕方きまった時刻に、重吉の家の前の往来は、そういう村々からの自転車のりで一杯になった。どのバスにも赤字で憲兵と書いた腕章をつけ長サーベルに長靴の男がのっていた。どこへ行って、どこへ帰る必要があるのか。知っている者はなかったが、いつも憲兵が一人ぐらいは乗っていた。その冬、アメリカとの戦争がはじめられたのであった。
 こんど来たひろ子が、二階の東窓をあけてみると、母が苦にした軍用道路は、裏の無花果《いちじく》の梢に手のとどくぐらいの高さで完成されていた。溝川一つへだてて、辛うじて重吉の家はそのままのこされたが、麦畑はつぶされ、その先の田圃も埋立てられ、その畑をつくっていた一軒の家は、在ったところをずっと山際よりに引こんだ。新道は、軍人が地図の上に引いた一本の線どおり、必ず真直に、断乎として作られなければならなかった。そしてそれは、作られた。直次は必ず応召しなければならなかった。そして、それはそのとおりにされた。
 バスは、もう狭いもとの往還の上を走っていなかった。バスは、裏の新道の上も走っ
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