ちゃ居りません」
 つや子の語調はいやにきっぱりしていて、何か、そういう電報は土台うたれもしないものだと云う風にきこえた。
 ひろ子は、母やつや子と話しているうちに悲しみよりも深い寂しさを感じて来た。直次の災難が知らされてから、一ヵ月余も経ち、しかも行方も不明、生死も不明というままに、今日では母も妻であるつや子も、直次を生きていない者としてあきらめて来ている。
 驚愕し、混乱しとりとめなく心当りに問い合わせ、さめざめと悲歎する場面も与えられないまま、直次のいない干潟《ひかた》のようになった生活の日々がこの家にのこされた。母とつや子が小さい二人の息子対手に、商売もなく、人気もなくなった家のなかに暮していて、東京から来たひろ子を見たとき、思わずとりすがって愁歎するそういう気持の激しいはずみさえなくしている。
 若いつや子が、涙を一杯ためながらも声の調子を変えず、直次をたずね歩いた時の様子を話すのをききながら、毛穴から汗のにじみ出して来るような苦しさを覚えた。ひろ子はこの状態において、あらわれた助力者という感じでうけとられていない自分を痛切に感じたのであった。
 母も、つや子も、くりかえし、
前へ 次へ
全220ページ中76ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング