るという意地わるさが想像されなかったので、ひろ子は、いぶかしそうに、
「六時四十分て――午前?」ときいた。
「六時って云えば、午前だぐらい、ばかでもわかるだろう!」
 たった十四五のその少年駅手は左腕がなかった。青服の子供らしく短い片袖が尖った肩から垂直にたれている。片腕のない少年駅手は両脚をはだけて段の上に突立ち、何もかも無くなっている駅で戸惑いながら、ひろ子のように間のぬけた質問をする旅客の一人一人に、復讐的な鋭い悪意の輝いた嘲弄で応酬しているのであった。
 壊滅しつくしている市街と駅。そして小さい鬼のような少年駅手。ひろ子は、次の汽車までそこに居たたまれない気がした。また雨の中を馳けて、まだ停っている急行へよじのぼった。
「なあんだ、又のるのかね」
「ええ、岩国まで。――お願いします」

 岩国駅で下りて、ひろ子は山裾の方を眺めた。幾条もの線路越しの彼方に遠く生木でこしらえた小屋が一つ見え、そのあたりに駅員の姿がまばらに動いている。ふりかえって、ひろ子は海岸を眺めた。きらめく瀬戸内海の碧さに向って巨大に建て連っていたもとの人絹工場、後の飛行機工場の白い建物や、陸軍燃料廠の棟々は、
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