。先着して座席をとっていた若い丸顔の従卒は、挙手の礼はしないで、ただ起立して、その席をゆずった。それらの光景を、ひろ子は東京駅の混雑の裡に思い出すことが出来るのであった。
三個の六分|搗《づき》の握り飯は、誰の目にも質素な弁当である。湯呑茶わんについている「教・総」という二つの字、それから推察されるその軍人の地位、それらは質素な弁当を当然に思わせた。
ひろ子は三日前、東北のある町から東京まで戻った。途中若い海軍士官とのり合わせ、彼が車掌と論判し、互に辱しめ合う苦しい情景を目撃した。苦悩が剣相さとなってあらわれている蒼い顔で、その若い士官は論判の後弁当をひろげ、部下にも食えと云ってさし出した。それは、びっくりするほどぜいたくな、世間ばなれのした料理であった。ぜいたくな食いものは、周囲の乗客の注意をひき、一層その若者に反撥させた。若い士官は明らかにそれを自覚していた。が、それが何でわるい、という肩つきで、まずそうに乱暴にそれを平げて行った。
下関近くの、重吉の故郷へ向ってこの列車にのりこんでいるひろ子は、東北から上野へ向って来たとき同様、旅客の中にほんの僅な女の一人旅であった。
東
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