ンドウのような深い遮光笠を茶の間の電燈につけていた。その息苦しい光の輪の下で食事をしたり、話したりした。
今度来てみると、その笠に、さっぱりと器用な切り抜き模様がついて、ガンドウの裾も工夫よくつめられている。すっかり明るくなるように工夫されて、ともっている。鮎沢の夫妻は、どっちがどうと云えないほど、こういう思いつきはうまかった。手狭な家を、二人のちょっとした工夫で住心地よくして、篤子はもう何年も或る経済関係の研究所に、雄治は専門の西洋史の勉強の傍ら或る出版社に通っていた。
電燈を明るくしてよいとなったとき、ひろ子が暮していた弟のうちでは、主人公の行雄が、おもむろに戸棚から必要な数だけ白い瀬戸の笠を出して来た。小枝がそれを拭いて、また行雄がそれをうけとってつけ代えた。遮光笠の方は、物置部屋の背負籠のわきに半ば放りこまれた。それきりであった。
鮎沢の茶の間の笠は、そういう風には扱われてはいなかった。光をさえぎるようにこしらえられていたその笠を、夫婦で作り更えて、明るいための笠に直して使っている。
些細なことであるけれども、最近一ヵ月余り、周囲のあらゆる事々が、外からの力で機械的に、
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