こたなかッぺ」
それにつれて五兵衛は、何か自分にもかかわりのあった滑稽なことを思い出したらしく、ハハハと、一人でひどく笑った。
「さ、畑さ行がねえば。ばっぱさに又ぼやかれるかんな」
五兵衛が去ったあと、小枝とひろ子とは何とはなしに暫く話のつぎほを失った。
生活は、かわりはじめていた。
東久邇内閣は、毎日毎日、くりかえして、武器、軍需品、兵器物資を自分勝手に処分してはならない。秩序を守って、上部からの命令に従えと全国に向って放送しつづけていた。しかし、その警告が現実には却って、早いもの勝ち、今のうちにと、手あたりばったりな掠奪の刺戟となっているように見えた。
八月十五日から二三日、全く麻痺したようになっていた小さな町が正気をとり戻したときは、もう、誰それが何をどの位せしめたそうだ、という風な噂で活況を呈した。
ひろ子が風呂を貰いに行く農家の勘助のところでは、隠居所のようにして、二間の家を富井の門わきにもっていた。十五日の夜行ったとき、根っ子が低く燃えている夏の炉を囲んで勘助父子は褌一本、女房のおとめは腰巻一つの湯上り姿で、ぐったり首を垂れていた。けれどもこの頃では、三人の様子
前へ
次へ
全220ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング