水面に立って、薄《すすき》のように風にそよぎ、細雨に空しくゆれている。水の中に、農家が点在して見えた。それらの農家と農家との間には、小舟ででも通行するしかない水の深さに見えた。少し山よりの高みでは、重吉の家でもそうだったように家のめぐりに、ありとあらゆるべた土まびれの家財が運び出されていた。運び出されたままきょうの雨に濡れている。
 物音一つしなかった。一望濁水に浸されて人影のない風物は、住民の絶望の深さを語った。
 両手をしぼるように握り合わせ、窓外の景色から目を離せずにいるひろ子をのせて、列車は一時不時停車をし、それからは最徐行で進んだ。線路が全く水の下になってしまっているのであった。
 進行する列車の車輪の下から、大きい水しぶきがあがった。ほとばしる水の音は、不安に殺している苦しい息を一時に吐き出すようなボボッ、ボボボという機関車の乱れた排気音に交った。
 どうにか姫路駅まで辿りついた。緊張している乗客たちは、窓から首を出してプラットフォームを通りがかる駅員に、先の模様を訊いていた。ところへ、もうこれから先へは行けないそうだという噂が前部からつたわって来た。みんな立ち上って、騒然
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