であった。その二ヵ月足らずの、いそがしい、出入りの多い朝夕を送った小さな細長い二階家は、今残っている弟の家から西北数丁のところにあった。そこは焼けてしまった。
 一人暮しの永い年月の間に、ひろ子は、巣をかけてはそれをこわされ、又巣をかけては、それを持ち切れないような目に会わされて、幾度か引越しをした。それらの屋根の小さい家々も一九四五年の春から夏までの間にみんな焼けてしまった。重吉は、おそらく小さなふろしき包み一つを下げて帰って来るだろう。世間ばなれのした和服を着て、下駄さえも重吉はもっていないのだからおそらく公判につかった草履をはいて。ひろ子にあるものは、困難な時々に売って大分内容の変ってしまった本棚と机とふとんと、それから、もし家をもつときは、と思って、網走行の荷物にそえて集めておいたいくらかの世帯道具と。ろくな家財さえない。
 しかし、ひろ子には、自分たちに何にもない、ということが、いわば、最もあることの逆現象のような気がした。それでこそ、自分たちとしては自然であると思えた。これらの十余年の二人の生活を思えば、そこに何があり得たろう。今、解放がある。それでつきている。
 ひろ子は
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