ふきながら叔母も上機嫌で台所から出て来た。
「駅にも、はア今ごろは新聞がついちょろうから、おばはんも大抵よろこんででありましょうよ」
天真爛漫な叔母のよろこびに、ひろ子は笑顔で応えることも出来なかった。縫子が、びっくりした表情でその顔を見直したほど沈痛な口調で呟いた。
「もうすこし様子をみてからでないと、何にも云えないわね」
立ったまま、ひろ子はくい入るように紙面に目を据えた。
「ああいうところでは世間とまるでちがった風にものごとが運ばれるんだから。……重吉さんは治安維持法一つじゃないんだもの――もり沢山な目にあわされているんだから……」
治安維持法関係の思想犯は解放される、とはっきり語られている数行の文字は、ひろ子の心を捩《ねじ》りあげた。重吉の事件は、党組織の中に特高課が計画的に何年間にも亙って入れていたスパイの摘発に関していた。偶然、スパイの一人が特異体質の男で、変死した。事件の性質から、この裁判は全く復讐的なものであった。公判ではじめて内容を知ったひろ子は、支配権力の法律というものが、本来の性質である公正だの面目などをもはやかまっていられないほど、兇猛になっているのをその
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