、利慾でうごめいていた人間の姿が消えた。ひろ子たちが歩いてゆく今、それらのある窓は板を釘づけにされたまま、或る建ものは看板をかけたまま空屋となっていた。前の歩道では、四五日前の暴風雨のせいか、それとも空襲のときにそうなったのか、根っ子をむき出してプラタナスの並木が数丁に亙ってなぎ倒されていた。倒れたままプラタナスの青葉は、泥によごれながら緑の葉をしげらせていた。
面白くない顔をした男たちが歩いて来る。一つのロータリーのところへ出て、ひろ子は思わず、
「何だろう!」
憤りを声に出した。
「まるで、こうじゃないの」
右手で、盤の上の駒を荒々しく刷きのける恰好をした。縫子の家は、そこからじきなのであったが、土着の住民たちの生活は、全く無視されて、横丁のどぶ端へせせこましく追いこまれている。ここでは清潔なアスファルト大通りの上は、迷彩がほどこされ、空虚に、一直線に工廠の門へ通じている。そのロータリーに、安田銀行が、目立つ角店を出していた。
「閉めてるの?」
「いいえ、やっちょります」
つきあたりに、古鉄の紙屑籠のようになった工廠の大廃墟がそびえているのであった。
この大通りから一歩横
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