切通しをぬけたところの谷間に、迷彩をほどこした二棟の飯場のような急ごしらえの建物が低く見えた。上の道の草堤に沿って、軍用トラックが八台、片方のタイヤを溝の中へおとして、雨ざらしのまま並べられている。
 新道の風景は、一丁ごとに荒々しく、人間ばなれして見えて来た。
 三方を低い山に囲まれた山懐の奥に、板のつき上げ窓が並んだ真新しい建物が四棟も建て捨てられてあった。立木を伐採したままの赭い地肌、真新らしいのにもう羽目がそりくりかえって、或るものは脱れている粗末な工事。西日ばかりは午後から暗くなるまでさし込むかわり、どんな夏の夕風もそこまでは決して入って来ることのなさそうな山懐に、せまい板のつき上げ窓が無数に並んで見えている光景は、通りがかりのものをさえ息苦しくした。
「あすこへ、人間を入れるつもりだったんだろうか!」
「徴用で地方から来る若い者の宿舎にするつもりでありましたろう」
「どこの?」
「そりゃ、工廠でありますよ」
 縫子は落付いた嫌悪にみちた声で答えた。
「この辺で工廠に関係ないものは一つもありません」
 それは、ありませんというより、あり得ませんという風に響くのであった。
 
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