入れられていた。上げられる箱やトランクを部屋のぐるりに置きながらひろ子は食糧が気になった。こうして着物ばかり保護しているが、食糧はどうなのだろう。東京で空襲があった間、市民が真先に心配し、守ったのは食糧であった。ひろ子が知っている範囲では石田の家の米味噌のおき場は前座の床であった。水が床をこせば、それらはもう安全でない。気づきが唇まで出かかった。が、ひろ子はそれをのみこんで、つや子が容赦なく指図して上げさせる衣類箱を、次から次へうけとっては積んだ。田舎では、食糧の心配がないのかもしれない。何とかなるものなのだろう。つや子が、嫁入りのときこしらえて来た衣類、直次の着ていたもの、子供らのための用意、それを濡すまいとする心理は皆にとっても自然なのだろう。
 箱をあげはじめて十分も経ったとき、益々水嵩がまして来て、階下は大騒動になった。
「それ! おごうはん、お上りませ、こけよりますで!」
 水の中へ倒れたガラスのこわれる音がした。タバコの空棚が浮き出して、ひっくりかえった。
「どうなろうかいの!」
 怒って絶望した母の声がした。こちらで箪笥が浮き出した。
 階段の上《あが》り端《はな》にさし
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