ね」
「それで結構でありますよ」
石田の家は、街道に沿って埋立てたせまい三角地の上に窮屈に建て増し、建て増しされた家であった。廊下の中に庇合《ひあ》わいなどがあった。こんなに降ると、仏壇のおいてある戸棚の中が大もりになって、バシャバシャしぶいた。家じゅうそこここに、盥《たらい》、バケツがもち出された。昭夫と治郎とは、その盥をめぐり、バケツのまわりをかけまわっている。子供の叫び声と吹きつけられる大雨のザッ、ザザッという天地いっぱいの音をきいていると、ひろ子は子供時代を思い出した。大雨のときうちの中はいつもうす暗かった。すこしずつすかした雨戸の間から雨がふりこんで古い廊下がぬれていた。ひろ子と二人の弟たちとは、小さい三つの顔を一つずつ雨戸のすき間から覗けて、誰が一番長く雨に顔をたたかれて平気でいられるか、競争をした。それから、濡れている廊下を片足ですべった。昼間の薄ぐらさ、ひどい大雨の音。むし暑さ。それらは、稚いひろ子を興奮させ、どきつかせた。子供らのおまる[#「おまる」に傍点]のわきに、夜じゅう豆ランプがついていて、いつもぼーっと雨戸についた地震戸の棧を照していた。
今にも消えそうで
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