よ」
つや子も髪をかきあげながら出て来た。
「駅から二里も歩かんならんのに、この雨では、ほん、せんのうありますわ」
おそい汽車に、と思っているうちに、十時になり正午になり、午後になって雨は一層ひどくなった。
縫子は、ひろ子のもんぺのほころびを縫ったり、二人の子供らの腹がけをこしらえたりしてやりながらも、気にして折々雨にかすむ外を見た。
「わたし、かえってまた出直そうかと思うけれど」
「どうしてさ。汽車にものれないのにこの雨を帰れるものか、歩くの?」
「……いて、いいかしら」
「誰にわるいのさ」
「…………」
「そうあれこれ考えないものよ」
「…………」
小声でそんな短い言葉が交されるとき、母もつや子もそのあたりにはいないのであった。石田へゆくと、挨拶を終る間もなくきっとつや子が、何時の汽車でおかえりますの? ときくんだものと親戚の若い女たちは歎いた。つや子は体が弱いせいか、その体のよわいということに気負けして暮しているせいか、直次のいるときから客ずきでなかった。人の出入りもない今、食事ごしらえも感興なく、その場のしのぎという風にされていた。
大降りの勢はちっともゆるまず、段々
前へ
次へ
全220ページ中103ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング