しもとも片づいて、やっぱり人気がない。直次たちがよく床几にかけて賑やかに忙しく朝飯や昼飯をたべていた板張にもんぺの膝を押しつけてひろ子は奥へ声をかけた。
「みなさん、お留守なの?」
 一層声を大きく、
「こんちは」
と呼んだ。
「まア!」
 ひょこんと、まるでついそこにいたようにつや子が、前会ったときと大して変ってもいない顔を出した。
「いたの? きこえなかって?」
 それには答えず、
「まア! ように!」
 つや子は、紺ぽいスカートをひるがえして奥へかけこんだ。
「おばあちゃん! おばあちゃん! 東京から見えてですよ」
 すぐ、
「まあ、まあ」
と、心からの声をあげながら登代が出て来た。
「今ついて?」
「三時間もおくれてしまったもんで……」
「えらいのに、ほんにまア。さあさあ、お上りませ」
 ひろ子の一瞥には、母のやつれの方が著しく映った。活気横溢という日頃の表情は母の顔立ちから消えて、絣の着物の肩がすぼけて見えた。
「直次が。のうあんた、ほんにまア、何と云っていいやら」
「電報ついたでしょうか。わたし速達を頂いた翌日立って来たんだけれど……」
「まだ来ん、のう、つや子はん」
「来ちゃ居りません」
 つや子の語調はいやにきっぱりしていて、何か、そういう電報は土台うたれもしないものだと云う風にきこえた。
 ひろ子は、母やつや子と話しているうちに悲しみよりも深い寂しさを感じて来た。直次の災難が知らされてから、一ヵ月余も経ち、しかも行方も不明、生死も不明というままに、今日では母も妻であるつや子も、直次を生きていない者としてあきらめて来ている。
 驚愕し、混乱しとりとめなく心当りに問い合わせ、さめざめと悲歎する場面も与えられないまま、直次のいない干潟《ひかた》のようになった生活の日々がこの家にのこされた。母とつや子が小さい二人の息子対手に、商売もなく、人気もなくなった家のなかに暮していて、東京から来たひろ子を見たとき、思わずとりすがって愁歎するそういう気持の激しいはずみさえなくしている。
 若いつや子が、涙を一杯ためながらも声の調子を変えず、直次をたずね歩いた時の様子を話すのをききながら、毛穴から汗のにじみ出して来るような苦しさを覚えた。ひろ子はこの状態において、あらわれた助力者という感じでうけとられていない自分を痛切に感じたのであった。
 母も、つや子も、くりかえし、
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