な、歯の美しい若者同士である。ちょいちょい冗談を云い合って笑う。彼等の言葉は朝鮮の言葉であった。ひろ子が、この旅の往き来で見かけた朝鮮人たちは、すべて西へ西へ、海峡へ海峡へ、と動いていた。だがこの若者たちは、東へ向っている。
 若者たちにはうれしいことが行手に待っているらしく、殆どはしゃぐ仔犬のようにふざけたり追っかけっこのようなことをしたりして、あいだには歌をうたい、しかし車からは離れずついて来る。
 微風に梳《す》かれる秋陽は、播州の山々と、畑、小さい町とそこの樹木を金色にとかし、荷馬車は、かたり、ことりと一筋の国道の上を、目的地に向って、動いてゆく。かた、ことと鳴る轍の音は不思議に若者たちの陽気さと調和した。そしてひろ子の心に充ち溢れる様々の思いに節を合わせた。この国道を、こうして運ばれることは、一生のうちに、もう二度とはないことであろう。今すぎてゆく小さな町の生垣。明石の松林の彼方に赤錆て立っている大工場の廃墟。それらをひろ子は消されない感銘をもって眺めた。日本じゅうが、こうして動きつつある。ひろ子は痛切にそのことを感じるのであった。



底本:「宮本百合子全集 第六巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年1月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
親本:「宮本百合子全集 第十巻」河出書房
   1952(昭和27)年6月発行
初出:第1〜11節「新日本文学」
   1946(昭和21)年3月創刊号(第1節)
            4月第二号(第2〜5節)
            10月第五号(第6〜11節)
   第16・17節「潮流」(「国道」と題して発表)
   1947(昭和22)年1月号
   第1〜17節「播州平野」河出書房
   1947(昭和22)年4月
※「B29」の「29」は縦中横。
入力:柴田卓治
校正:松永正敏
2002年6月25日作成
2003年7月5日修正
青空文庫作成ファイル:
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