えんものは、こいうことになると実に困ります。――ここでいいんでしょうか」
法外に足かけの幅の遠い滑るだんだんをやっと崖上へ出た。そこは、人家の裏の細道らしく、小流れの音が片側にきこえた。雨にうたれながら荷物を背負った人々は、真暗闇の中に、びしゃびしゃ泥濘《ぬかるみ》の音を響かせ、
「こっちか?」
「まっすぐだ!」
「てんで見えやしねえ」
不機嫌に時々よびかわし、雨傘をさしたひろ子とつれとを追い越した。徒歩連絡らしい列は、どこにも出来ていなかった。足のはやい、力のつよい男たちが、自分たちだけでぐんぐん先へ行った。ひろ子のつれとなった男は、緑内障《あおそこひ》で、ほとんど両眼の視力が失われているのであった。
それをきいてひろ子にはその快活そうでひどく気弱な男のとりなしの万端が諒解された。ひろ子は脚がよわい。その男には視力がない。その二人が、それぞれの目的で、須波と三原の間の、雨の夜道を歩こうとしているのであった。壮年にかかわらず視力の弱い男が、一種の勘で、丈夫でないひろ子を道づれとして見つけたことを、面白くも思えた。
月夜ならばそれが桜の樹だとわかりそうな並木のある堤のような道も、アスファルトで舗装されている広い大通りも通って行く道はみんな暗かった。ひどい降りになった雨と、びしゃびしゃ通る素性の知れない夜の歩行者とに向って、人家の雨戸は用心ぶかくとざされていた。すきま洩れる明りばかりが、時々繁い雨脚とぬれて光る道とを照した。
ひろ子は、一度ならずトラックがこしらえた深い穴ぼこの水たまりにはまった。
「ひどい水たまりですよ」
「や、すみません」
道路の半分ばかりが、くずれているようなところもあった。
「そっち側は駄目ですよ、まるっきり崩れているから」
「――目のよう見えんというのは、ほんに難儀なものです、いちいち、ひとに云うてもおれんし……おかげさんで大助りします」
そんな工合に雨の中をひろ子とその道づれとは歩いて、一つの長い橋をわたった。何年か前、呉線まわりで東京へ帰ったことがあった。そのとき、呉のさきに、長い鉄橋があり、そこを通る汽車の窓から、同じ長さでむこうにかけられている橋の直線的な眺めが、大変美しかったおぼえがある。その長い美しい橋は河口にかけられていた。海は遠くなかった。吹き降りの雨を傘にうけかねて、上体を前かがみに、リュックを背負った二人がわた
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