ってはならないことなのであったから。
ここには人口二十万の大都市がつくられる筈であった。その架空の計画が崩れた途端、この土地に愛着をもたずに集められていた人々は、工廠官舎がまず空屋になるとともに、いそがしく退いて、三万にも足りない住民がのこった。崩されかけたまま工事中止になった崖の下、埋立てられ雑草がしげりっぱなしの田圃の真中まで延びて来て、そこでとぎれたままの大道路の横に、ちょぼちょぼとのこされた。そして、退職金をくいはじめた。
家の前通りへ曲って来ると、道に一尾、ひろ子が名を知らない白っぽい細長い形の魚が落ちていた。その魚は、漁師の籠からでも落ちたものらしく、活《いき》がよかった。海近い村の通りの落しものらしくて面白いと眺めていると、ひろ子を追いこして、背広に折カバンをもった男が、その落ちている魚のところへ通りがかった。その男は、すぐ落ちているものに目をとめた。立ちどまって、それを眺めた。それから、かがんで尻尾をもって魚をひろい上げ、やや離れたところに立っているひろ子に曖昧な笑い顔を向けた。
「活がよさそうだもの。持っていらっしゃれば……」
ひろ子が笑いながらそういうと、背広の男は、黙ったままもっと高く手をあげて、魚を見た。そして、遂に決心したように、その思いがけないひろいものを下げて行った。その男よりも先にはんてん着ではだしの爺さんが一人通った。魚は、もうそこに落ちていただろう。爺さんの眼ではそれが見えなかったのだろうか。ともかく、それを発見し、ひろ子の同意をもとめて臆病に笑ってひろって行ったのは、背広を着て、夏帽子をかぶり、書類鞄をかかえた男であった。
門口に、縫子が出ていた。ひろ子が見たのを待ちかねて、手招きをした。いそいで手招きした。
「なんなの」
「――はよ、おいでませ」
十四
いぶかしそうに入るひろ子の背をかかえるようにして、縫子は上り端まで一緒に来た。そこの畳の上に新聞がおいてあった。縫子は、それをひろげ、
「どうであります!」
一つの記事を指さした。
ひろ子は、名状出来ない衝動を感じてその記事をよんだ。ポツダム宣言によって、日本の治安維持法は近日中に撤廃され、治安維持法によって処罰されていた思想犯人はすべて釈放される、という報道なのであった。
「こりゃ、重吉さんも案外早うに帰られますで。――うれしやのう」
手を
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