供っぽい眼つきをして、ひろ子が云い出した。ひろ子にそう感じさせる日々の空気があるのであった。
「そうおしませ! それがようあります。さわ子もどんなによろこぶかしれんし」
「ね、本当に行っちゃおう」
 そんな話をしたのは午前中であった。昼飯につや子が上ってきて、干しものがとりこまれてあいている軒先の綱に目をとめた。
「はや、干しものすんででありますの」
「どうやら乾くだけは乾いたらしいわ。まだまだあとが一仕事だけれど……」
 食後休みをしているときつや子が訊いた。
「縫子はん、こんどは、えらい目にあわせて、すみませなんだのう。いつお帰ってでありますか。――もうこちらはよろしうありますから」
 ひろ子が苦笑いに笑い出した。
「もうよろしい、はあんまり正直ね」
「きょう、そろそろいにましょういの」
「ね、つや子さん、私縫子と一緒に田原へ行って来ようと思うけれど、どうかしら」
「ほん、不自由させつめて、すみませんの。田原じゃったら家もきれいし、御馳走もあってじゃから……」
「そういうわけじゃないのよ。汽車が不通でどうせ動けないからね。今のうち田原へ行って置こうと思うのよ」
「ほん、それがよろしうあります」
 全く念頭になかった家のことだの食物のことだのにふれられて、ひろ子は閉口した。ひろ子がおばたちの家で欲したのは、罪のない一つ二つの笑いだけだったのに。――
 三時頃、まだ決心しずにいるひろ子のところへ、つや子がわざわざあがって来た。そして、
「縫子はん、何時頃、おかえりますの」
 待ちかねる表情をむき出しに尋ねた。
「――田原へはおいきませんの?」
「どうしたのさ、つやちゃん。そんなにせっつかなくたっていいのに――。お母さんに伺わなくちゃきめられないわ、そうでしょう?」
 ひろ子は、まだところどころしか床板のはられていない階下へ下りて行った。戸棚の前で母に相談した。
「おいきませ、おいきませ。却ってそれがよろしうあります。ああいう気分の者じゃけ、ほん、いけんのう」
 縫子とつれ立って出がけに、つや子は台所の土間にいた。
「じゃ、行って参ります」
 こちらの廊下からひろ子が大きく声をかけたが、つや子は横顔を見せたまま返事をしなかった。

        十二

 何となし足早に小一丁ほど歩いて、段々ひろ子の気分は諧謔的になって来た。しまいに笑い出し、足どりも緩やかになって、
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