よ」
つや子も髪をかきあげながら出て来た。
「駅から二里も歩かんならんのに、この雨では、ほん、せんのうありますわ」
おそい汽車に、と思っているうちに、十時になり正午になり、午後になって雨は一層ひどくなった。
縫子は、ひろ子のもんぺのほころびを縫ったり、二人の子供らの腹がけをこしらえたりしてやりながらも、気にして折々雨にかすむ外を見た。
「わたし、かえってまた出直そうかと思うけれど」
「どうしてさ。汽車にものれないのにこの雨を帰れるものか、歩くの?」
「……いて、いいかしら」
「誰にわるいのさ」
「…………」
「そうあれこれ考えないものよ」
「…………」
小声でそんな短い言葉が交されるとき、母もつや子もそのあたりにはいないのであった。石田へゆくと、挨拶を終る間もなくきっとつや子が、何時の汽車でおかえりますの? ときくんだものと親戚の若い女たちは歎いた。つや子は体が弱いせいか、その体のよわいということに気負けして暮しているせいか、直次のいるときから客ずきでなかった。人の出入りもない今、食事ごしらえも感興なく、その場のしのぎという風にされていた。
大降りの勢はちっともゆるまず、段々夕方が迫って来た。
「どうで! ほんほん、よう降りよる! つや子はん、また停電なとせんうちに、御飯しまうことで……」
睡眠の奥にまで雨脚がとおっているような一夜が明けた。
きのうは大雨の裡に生々していた自然の眺めもちらばっている家々も、きょうは連日の重い雨に濡れふやけて、力なく、ぼんやり色が流れて見える。
ひろ子が二階で、雨のふりこまない西側の窓から線路の方を見ていると、母があがって来た。ひろ子と並んで線路、その先の竹藪、山裾へと視線をやった。真面目に気づかわしげにその方角をみた。その竹藪のかげに水無瀬川の、大きい河床がかくされているのであった。
六七年前の梅雨時分、ひろ子が来ていたとき、やはり雨がつづいた。刈りのこされた麦が、みんな黒穂にくさって、この窓から見わたすと、河床からあふれて麦畑を浸した大水が幾日も鈍く光った。黒いくさった麦の穂先だけが、その鉛色に光る水の上にそよいでいた。
「ほん、大難儀いのう。山の方で、みんな樹を伐らせよって、おまけに、根っこまで掘りおこしたから、水のとめどがないようになりよった」
「こんどは、いいあんばいにまだ、あっちの畑まで水が出ておりません
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