もあり、ない処もある非常にでこぼこした見るから哀れなもので、畳ばかりではなく床《ゆか》までベコベコになって居た。
 婆は一番年上の男の子に、
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「父《ちゃん》は?
 母《かか》は?
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と云ってききながら上り框に腰をかけて炉のほだで煙草を吸ったりした。
 一人の子の前がはだけて膝っ子僧が出て居るのを祖母がしてやる様に、しずかに可愛がって居るらしくなおしてやりながら、
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「お前《めえ》さま、今まで、こんなむさい家は見なすった事がなかっぺい。
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と云って大きな声で笑った。
 私の見なれない着物の着振り、歩きつきに子供等は余程変な気持になったと見えて、誰一人口を利《き》くものがなくて、只じろじろと私ばかりを見て居る。
 それをわきで見ながら婆さんは、
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「ひよろしがって居ますんだ(恥かしがって居るのだ)。
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と云う。
 私は、田舎の子の眼に見つめられる事にはなれっ子になって居たので格別間が悪《わるい》とも思わなかった。
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「父さんや、母さんは?
 淋しいだろう?
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とやさしい軽い笑をただよわせながら、一番大きい男の子に云った。
 土間に下りて、私を後の方から見て居た子はいきなり大きな声で、
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「ワーッ
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と笑った。
 私は少しいやな気持になった。けれ共、再び、
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「ねえ、淋しいだろう。
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と云った時、
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「お前の世話にはなんねえからなっし。
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と怒叱《どな》られた時ほどいやな気持にはならなかった。先ず、あんまりの返事に私は男の子の顔を見た。上り框の婆さんの傍に立って私を見下して恐ろしい顔をして怒叱《どな》ったのであった。
 私より婆さんの方がなお驚いたらしかった。その児の方を振向くと一緒に手を引っ張りながら、
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「何云うだ。そないな事云うものでねえぞ。
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と云った。
 私の心の中には、一種の「あわれみ」と恥かしい様な気持が湧き上ったのであった。
 私は、ほんとうに只、親切の心から云った言葉をこんな荒々しい言葉で返
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