よって、貧弱な文学の基ばんを拡げ新しくすることができるだろうと自分たちに期待したことは、幻想にすぎないことが証明されつつあった。一九三八年〔三〕月に石川達三が中央公論に発表して禁止された「生きている兵隊」という小説はそのテーマが戦争の野ばん性に圧倒されてしまう人間性を描いていた。そのような作品さえもそこに人間性の諸問題が残っているという意味で情報局は禁止した。これは日本の全人民が、「考える」能力を持つ者であることを情報局と軍部が否定した意味であった。
ヨーロッパではドイツファシズムの侵略が大規模に展開しつつあった。前年九月ワルソーに突入したナチス軍は四〇年の春ノルウェーに進出し、五月マジノ線を突破して一ヵ月の後フランスを降伏させていた。第二次ヨーロッパ大戦は次第にクライマックスに向いはじめた。日本の天皇制権力とその軍閥は目前のドイツファシズムの勝利に誘惑されて野心を夢みはじめた。
    執筆
一月。朝の風。(小説)生活者としての成長。(評論)
三月。昔の火事。(小説)
五月。夜の若葉。(小説)
十月。若き精神の成長を描く文学。(評論)昭和の十四年間。(日本評論、日本文学入門へ)
十一
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