書いた小説はどれも、作者のその基本的な熱望の上にたっていた。しかし表現はむずかしくてどの作品もかろうじて全篇を流れる気分として戦争に対する反対を表し得たばかりであった。文芸評論でいわゆる日本的なものの本質の究明とエセヒューマニズムとの闘いが意図された。
この年の一月目白三ノ三五七〇の家に引越した。一九三一年の秋の末から、段々宮本と会うことの多くなった頃住んでいた家が、じきそばにあった。新しく引越した家は朝夕の出入りにその二階やのわきを通る位置にあった。目白の家でこの年はどっさり執筆した。
執筆
一月。子供のために書く母たち。(社会時評)、ジイドとそのソヴェト旅行記。
二月。若き世代への恋愛論。パアル・バックの作風その他。文学における今日の日本的なもの。「大人の文学」論の現実性。鴎外・芥川・菊池の歴史小説。鴎外・漱石・藤村など。三月の第四日曜(小説)。ジイドとプラウダの批評。
四月。ヒューマニズムへのみち。
五月。山本有三氏の境地。
六月。猫車(小説)。迷いの末。(横光利一厨房日記評)藤村の文学にうつる自然。
単行本。この年竹村書房から小説集『乳房』、白揚社から評論集『昼夜随筆』
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