理想が、跡かたもなくふきとばされているのが身に沁みます。私たちも、そのときは、肩で人を押すようにして、乗らなければなりません。けれども、そうしてその時に乗ってしまえば、其で私たちの考えることもすんでしまったわけでしょうか。ほんとに嫌になっちゃうわ、ねえ、という丈をくりかえしていてすむものでしょうか。
こういう社会全体との関係で起っている事柄について、私たちが、今何を考えたからと云って、急に省線の車台をふやすことは出来ません。同時に、其だからと云って、考えずにいてよいかと云えば、其は間違いです。よしんば、私たちに、すぐ車台をふやせなくても、せめて自分たちだけは、出入口に立ちふさがらないように。そして、みんな気が立って、つんけんとこわい心持になっているときに、平静な、親切なこころを失わないように、そう努力することが無駄であると嗤う人はいまいと思います。
一カ月ばかり前のことでしたが、上野高女の生徒が、学校当局と意見の衝突をしたことがありました。学業もすてて耕作した作物を、先生が独占したことに対する不満が原因であったと記憶します。新聞の記事だけでは、双方の事実が十分に明らかにされてはいな
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