の××君は、色のいい茄子の漬物をドッサリ盛った小鉢へ向って筵の上へ胡坐《あぐら》を掻き、凝っときいている。やがて静かな、明晰な口調で、
「どうだ、今夜居られるかね?」
と訊いた。
「僕らはいいです」
「それじゃ結構だ。みんな集めるのは夜の方がいい」
 ××君は元からプロレタリア文化運動の基礎は工場・農村の中へ置かれなければならないと実践から主張して来たんだ。
 この部落十七軒が団結して独占地主××と闘争をはじめたのは昨日今日のことではない。旧労農党時代からだ。近隣の三部落も全農支部を組織して勇敢に闘争している。中でもこの部落は四・一六と二・一六とに犠牲者を出した。組合員は地主との闘争の焦点をハッキリ土地問題において勇敢にやっているのだ。部落の小作料はもう五年間も未納だ。
   ×
 この一見何の奇もない四十男の××君が、このためには口で云えない努力をつづけて来ているのだ。
 途中で見て来た道普請のことが出た。
「組合員は反対なんだ。強制賦役反対、弁当代を出せろと云っているんです」
 やがて、美味いウドンの昼飯をすませ、山芋掘の鍬をかついだ××君を先頭に家を出た。栗鼠《りす》が風の如く杉
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