から出て見ると都のステーションとは気がポーッとなるほどせわしない活気のある世界であった。
 家までやとったまだ若い車夫はずるくて鈍間でゆるい足袋を雨上りのぬかるみにつけてベジャベジャベジャベジャ勢のない音を出してゆるゆると走った。
 後から来た車がいかにも得意らしくスイスイと通り越して行くと私はかんしゃくを起して蹴込をトントン蹴った、それでもズドンズドンしたらよけいおそくなるからと思っていいかげん塩梅してストンストンやってかすかな満足を得ようとする自分の心が私には可笑しくもあった。
 家の門を入ると車が二台置いてあった。
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「よくないな
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と思うと頭へ体中の血がのぼる様になった。車屋へお金をはらおうと思うと銅貨が一つ足りなかった。
 柱のベルをはげしくならすと、
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「お帰りなさった。
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と云う声が聞えると女達は私のわきに泣きころげた。
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「どうなの? え、どうなのよ。
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 震えて口が利けない様だった。女二人は私の靴を片方ずつぬがせて呉れた。手伝に来た
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