私が渡り終えてフット振向とそれは大蛇でノタノタと草をないで私とはあべこべの方へ這って行く、――私はびっくりして向う岸と行き来の道を絶たれた悲しさと自分のわたった橋が大蛇だった驚きにしばらくはボーッとして居て、やがて気がついて自分の身のまわりを見ると赤かった着物がいつの間にかすっかり青い色になって居た。妙な事があると思うと目がさめて仕舞った。どうしてこんな短っかいそれで居て何だか薄気味の悪い夢を見たんだかどうしても考えがつかなかった。
私は目が覚めていつまでもいつまでもその夢を覚えて居られた。
(二)[#「(二)」は縦中横]
一番の七時二十五分の列車で私は不安な帰途についた。見知らずの人がすぐ隣りに居ると思うとその人達を研究的な注意深い気持で観察し始めるので病んで居る妹の事を思うのは半分位になった。
電報を受取った日のまだ明るい頃友達の所から本の小包をうけとった。
まだ頁を切ってない本が三四冊あったので私は八時間の長い間そんなに退屈もしないですんだ。
飛ぶ様に変って行く景色、駅々で乗込んで来る皆それぞれの地方色を持った人達に心がひかれて私は自分が今妹の病気の
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