ために帰京するんだなどとは云えないほど澄んだ面白い様な気持になって居た。
氏家駅に来るまで私は本を見景色をながめして自分ではらう事の出来ないほどの不安には迫られないですんだ。
氏家から乗って来た五つ六つの娘が痛々しくやせて青い営養不良の顔をして居たのを見たら年頃も同じ位なんですっかり気になり出して仕舞った。
あんな青いだろうか、あれほどやせただろうか、どうか悪い病気でなくてあればいい、生きて居て欲しい。不安や恐ろしさや悲しさが私の心の中に渦巻き立つと胸がこわばって息をするにさえ苦しい様になった。
一つところを見つめて私はせわしい息を吐きながら布団の中に埋る様にして居る幼い妹の事を思った。
涙は絶えずまぶたに満ちてそれでも人前を知らん顔を仕終せ様とするにはなかなかの骨折で顔が熱くなって帯を結んだあたりに汗がにじむ様だった。
死ぬとか生きるとかと云う事はまるで頭になく只私と仲の良い小さい娘に会いたいと云う心ばっかりに司[#「司」に「(ママ)」の注記]配されてスタスタと走って行ったら汽車で行くよりかも近路をしたら早くはあるまいかとさえ早く行きたいと云う心が思わせた。
平凡な田舎から出て見ると都のステーションとは気がポーッとなるほどせわしない活気のある世界であった。
家までやとったまだ若い車夫はずるくて鈍間でゆるい足袋を雨上りのぬかるみにつけてベジャベジャベジャベジャ勢のない音を出してゆるゆると走った。
後から来た車がいかにも得意らしくスイスイと通り越して行くと私はかんしゃくを起して蹴込をトントン蹴った、それでもズドンズドンしたらよけいおそくなるからと思っていいかげん塩梅してストンストンやってかすかな満足を得ようとする自分の心が私には可笑しくもあった。
家の門を入ると車が二台置いてあった。
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「よくないな
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と思うと頭へ体中の血がのぼる様になった。車屋へお金をはらおうと思うと銅貨が一つ足りなかった。
柱のベルをはげしくならすと、
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「お帰りなさった。
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と云う声が聞えると女達は私のわきに泣きころげた。
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「どうなの? え、どうなのよ。
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震えて口が利けない様だった。女二人は私の靴を片方ずつぬがせて呉れた。手伝に来た
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