もその一人であったと思われる。
只一眼その姿を見てそそられる様な清い愛情の湧く姿も声も神からさずからなかった。
誰れにも似て居ない赤坊を見た時二親なり同胞のものが変な感じにおそわれるのは自然な事である。
生れた児には何のつみもない。只不幸な偶然な出来事に会ったと云うよりほか仕方がない。その不幸なる思いがけない出来事によって直接その児が同胞達からいい気持をされなかったと云う事は実にくらべるものない惨めな事である。
よく人は容貌によって愛す愛さないと云う事はないと云うけれ共、一目見て不愉快な感じをあたえる顔をしたものをこの上なく愛すと云う事は人にまれな美徳なり技術なりがその醜さを被うて居る時ででもなければ大抵は出来ないものである。
まして何の色彩もない自己を装う事をしらない子供はありのままの自分をいつでも誰にでもさらけ出す。
子供特有の無邪気さはあってもそれをよけい美くしくする麗わしい容貌がいるものである。たしかに私はそれを信じて居る。
子供と云うものが従来最も神に近いものとしてあっただけ子供と云えば美くしく想像する。極く育とう、育とうとする子供の時代は万事の事がいかにも人間、人間して居る。
食べるものを遠慮なく欲しがる、その時に白い髪の黒い子が口を小さくしながら膝にすがって堪えられない魅力のある美くしいお菓子に折々流眼を呉れながらねだったならたとえいけないと叱るにもたまらない愛情がその心の奥にうごめいて居る。けれ共若しそれがきたならしい子だったら只もう不愉快な感ばかりになって仕舞う。
子供につきものの愛嬌と云うものにとぼしい私の妹は笑うと云う事が比較的少なかった。子供にしては智的な意志の強い性質が顔に少しも子供らしい柔かみをあたえて居なかった。口元はそう云うたちの人に有り勝な大きくムンと結んで幾分かこわい様な二つの眼はよく張った額の下で輝いて居た。
人に云われても一度自分の心で決した事はいやでも応でも仕とげる、そのために態度は随分粗野であった。
声なんかも荒く出来て居た。
けれ共色は白く髪は厚かった。粗野な一面には非常にデリケートな感情があって父親や兄達のこまこました事はやさしくしてやった。只一人の妹と云う事から両親の次に私はこの妹を大切にした、髪などをたまに結ってやったり歌を教えたりした。
私の膝に抱かれたまま、私の髪の毛をいじる事が大変す
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