ロランの女性たちには、一種独得のところがある。多種多様のあらわれかたをしている「ジャン・クリストフ」の世界の女性たちのある資質が、そのみずみずしさ、真摯さ、溌溂さで「魅せられたる魂」のアンネットやシルヴィにまで伸び育ってゆく過程は実に心をひかれる。「ジャン・クリストフ」の世界で、それぞれの女性たちは、その優れた美しさや知性や熱情にかかわらず、これまでどおり、社会関係の中では男に対する女としての角度からよろこび、悲しみ、波瀾にもまれている。彼女たちはジャン・クリストフの感性から働きかけるだけの存在であった。アンネットにおいてはロマン・ロランは男と同様な人間であり、人間の男が男であるとおりに、人間の女が女である女らしさをうち出そうとした。社会関係に対して動的な女性、単に習俗にしたがうよりも自分にとって人生の原則と感じられる動機によって行為を選択して生きる女性。ロマン・ロランは、アンネットによって、最も現代史を積極的に生きとおす可能をもった女性の発端の歩みを示したと思われる。
明日のフランス文学は、アンネット以後のアンネットを、どのように描くだろう。なぜならアンネットは「魅せられたる魂」の
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