犯人
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
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(例)[#地付き]〔一九四九年七月〕
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国鉄のクビキリが人々の注目をあつめはじめると同時に、列車妨害の記事が毎日、新聞へ出るようになった。九州ではトンネルの入口にダイナマイトをしかけた者さえあった。
そしてそれらの新聞記事は、それらの妨害がどれも鉄道の専門知識をもったものによっている、といかにも国鉄労働組合員のしかもクビキリにつよく反対している部類の組合員の仕業のようにほのめかした。この列車妨害記事の出はじめたとき、全国の国鉄労組のまじめな人たちは、すぐ自身たちで検察隊をつくるべきだと思った。こういう挑発は労働者自身によってきびしく監視されるべきことがらである。
列車妨害という行為は本質的に反労働者的であり、反人民的である。ソヴェト同盟で列車妨害は反革命陰謀者たちが主要な一環として実行した挑発行為であった。
九州でダイナマイトを仕かけた事件は写真入りで報道された。しかし犯人も出なければそのダイナマイトというものが果して本当に爆発するものであったかなかったかさえ公表されなかった。記事は世間に不安なセンセーションをおこし反共の役を演じたままヤミに葬られた。その前後に十五歳になる少年数名が列車妨害で捕えられ、またこれもウヤムヤにひっこめられた。十五歳ぐらいの不良少年がチャリンコ適齢期であり、親分子分、兄貴とのつきあいを知っていることは、こんにちの日本の世相では周知の事実である。反対に十三歳より十五歳の少年たちが列車妨害を発見した一例があった。これとそれとを考えあわせれば、十五歳の少年団の列車妨害はただのいたずら心といいきれるだろうか。列車妨害で一人の共産党員と自称する男がつかまったと報じられた。これはデマとして大した利用価値はなかったようだ。
下山事件は二週間たった今日やっと自殺説が表面に出されてきている。この事件で検事局が警視庁の捜査本部へ殺人の方向で進めてくれと特に注文をつけ、捜査本部はかならずしも同調しなかったことは世人の記憶にあたらしい事実である。
『読売新聞』は一貫して犯罪性を強調し、この裏に共産党ありと、あすにも犯人があがりそうに不安な雰囲気をかきたててきたが、今日の『読売』をみると一役すんだのだろう、国鉄中闘委員会左派十四名免
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