発刊の言葉
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)[#地付き]〔一九三二年一月〕
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 町の本屋の店さきを見ると、ハデな表紙の婦人雑誌が山ほどつまれています。どの一冊を手にとりあげてみても、まず美しく着飾った若い女の写真がのっているか、さもなくば、どうしたら美しく化粧できるかというようなことが書かれている。
 なるほどこの頃は、不景気につれて、こういうブルジョア婦人雑誌にでも、どうしたら貯金が出来るかとか、失業や減俸にあった家庭のやりくりのしかたとかいう記事がのります。
 しかし、わたし達すべて働く婦人は、世の中の不景気が深まるにつれ、一日一日と実に辛い暮しをするので、たとえば減俸についても、ただ、減俸された世帯をどうやりくるかという末のことだけでなく、何故減俸ということが起ったのかという根本のところまでを、どうかして知り度く思うのです。失業についてもそうです。
 どうしたらこの不安な失業ということはなくなるか。減俸にあわないですむ世の中になるのか。そういう事も知りたい。
 この頃の農村の生活のせつなさはお話のほかです。それについてもお互に話したいこと知りたいことは胸いっぱいです。
 ブルジョアの婦人雑誌は、われわれ働く婦人のそういう沢山の望みを決してシンからみたしてはくれません。わたし達は、ほんとに自分達の日常生活の友となり役に立つ知識と勇気と楽しみとを与えてくれる婦人雑誌が欲しいのです。
 それにはこれまで『婦人戦旗』というのがあったのです。『婦人戦旗』は日本で初めて生れた働く婦人の友となり教師となる雑誌でした。そして、これは戦旗社という出版社から出されていたものです。
 ところが残念なことにこの『婦人戦旗』は非常に出版を困難にされ、実になる婦人雑誌を求めている働く婦人みなさんの手にくまなく渡るというところまでは行きませんでした。
 今度まことに嬉しいことには日本プロレタリア文化連盟というのが結成されました。これは今日本にあるわれわれ勤労大衆のための文化団体十二がかたまって力を合わせますます活溌な活動をするところです。
 そこからいよいよこの『働く婦人』というわたしらの雑誌が出ます。これこそ、もっと広い、もっと楽しく充実したわれわれの婦人雑誌です。お互に真面目に働きながら多くの苦
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