親たちの生涯の延長として、その延長されたいのちが遭遇する歴史の姿として、私がこれらの愛するものの傍で、よしや薬をのませることさえ出来なかったとしても、私たち親と子は正真正銘親と子で、どんな力も其をさえぎることの出来ない、いとしい世代の流れをうけついだものと思われるのである。
孝子夫人の訃報をしらされた時、私は、思わず「ああ」と声に出した。「到頭!」
又もや、ここで、私は最も親愛なひとの一人を喪った。強くそう感じた。そして、自分のなかに、孝子夫人の俤と、様々な女性としての悲喜にみたされた生活とが、まざまざと甦った。その俤には、稚いこころに印された、ふくよかに美しい二枚重ねの襟元と、小さい羽虫を誘いよせていた日向の白藤の、ゆたかに長い花房とが馥郁として添うているのである。
孝子夫人と母と、この二人の女いとこは、溌溂とした明治の空気のなかから生れ出て、それぞれに精一杯の生きようをした女性であった。そのことのまじりけなさの故にこそ、私たちが血縁をもって結ばれているという事実も人間史の鏡に映って云うに云えない味いに満ち、愛着の新鮮な泉をも絶やすことがないのであると思われる。
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