に蔕《へた》からくさって落ちた自由主義の歴史に煩わされて、日本のインテリゲンチアは、十九世紀初頭の政治的変転を経たフランスのインテリゲンチアとは同じでない。対立する力に対して、人間の理性の到達点を静にしかし強固に守りとおし、その任務を歴史の推進のために光栄あるものと感じ得る知識人らしい知識人さえも、日本においては数が少いのである。
無理がとおれば道理がひっこむ、といういろは[#「いろは」に傍点]歌留多の悲しい昔ながらの物わかりよさが、感傷をともなった受動性・屈伏性として、急進的な大衆の胸の底にも微妙な形に寄生している。プロレタリア作家が腹の中でその虫にたかられている実証は、「白夜」その他同じ傾向の作品の調子に反響している。
もし、おのおのの主人公をして事そこに到らざるを得ないようにした錯綜、また〔三字伏字〕(復元不可能)配置された紛糾混迷などを描き出して、せめては悲劇的なものにまで作品を緊張させ得たら、人は何かの形で今日の現実に暴威をふるう権力の害悪について真面目な沈思に誘われたであろうと思う。けれども、これらの作者たちは、いい合わせたように、現実のその面はえぐりださず、自身の側だ
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