冬の海
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)水泡《みなわ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#小書き片仮名ガ、414−12]
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 あんまりはっきり晴れ渡らない空合で、風も静かに気にかからぬまでに吹いて居る。
 丁度満潮時で、海面は白と藍のむら濃になってゆるやかに息をついて居る。
 かなり久しい間、海に来ないで居たので、波の音が、脳の中の、きたないものを皆持って行って呉れるかと思われる様に、新らしく感じられる。
 小田原の海ほど高い波がよせないので、つれて景色ものどやかで、見て居ても快い。
 波面と、砂がまぼしくひかる上から、短かい、細かな「かげろう」がチラチラもえて居る。
 向うの青々した山の裾まで、かるく、ゆれて、ホンノリとして見えるので、まるで初春の雲雀でも鳴いて居る時の様に思われる。
 まだ三※[#小書き片仮名ガ、414−12]日がすまないので、漁船は皆浜に上って居て、胴の間に船じるしの「のぼり」と松が立ててあるその下で、「
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