た。成程、車庫は白服でつまってそのまわりはなめたように閑静だし、罷業団は職場以外のそれぞれのところに塊まって気勢をあげている。その状態を、見事な双方の統制というのかもしれぬけれど、どの電車の内、停留場にでも貼られているのは、電気局の儀式ばった印刷のビラだけで、従業員たちが直接市民に訴えるただ一枚のビラ、伝単さえ見当らないのはどういうものであろう。そしてまた、従業員の生活問題のために起った東交が、やはり一枚のビラをもまかず、市民に向って特別なアッピールをもしないでいるというのは何故であろうか。そう思って、「争議団司令部」という大きなはり紙をした二階の手摺のところへ、新聞社写真班のために、わざわざ並んだ幹部たちの写真を眺めいるのであった。
[#地付き]〔一九三四年十月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
初出:「進歩」
   1934(昭和9)年10月号
※×傍点を付した文字は、底本の親
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