重衝突でつぶされちゃったかと思ったわよ」
その辺には号外やら夕刊がとり散らされてある。どれにも、各所に籠城した罷業従業員達の動静や街上風景を写真ニュースで報じ、「怖し羞し背広の車掌」「非常時運転がこぼすユーモア」「笑いをのせて」などと云う記事が面白可笑しく出ている。一方山下又三郎の名で「総罷業の首謀者四十五名に解傭を通告」という報道がある。
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今回の罷業に関し貴下を懲戒解傭の処分に附するの已むなきを得ざるに至りし事は遺憾至極に存じ候。然れども貴下の行動は恐らく本心より出でたるものにあらざるべしと思慮致候に付来る七日迄に復職願い出でられたる場合においては、当局々員として適当と認めたる時は実施案の本旨に鑑み特に今回にかぎり右処分を取消すことも有之べく念のため申添候。
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「何だか意味深重な手紙だねえ」
弟がそう云っている。
「どういうのよ、これ。ね、お兄さん。それまでにストライキをやめろってことなのかしら?」
新聞は、今度の総罷業は「双方見事な統制で応戦」と報じているが、私は市中へ出て見てまた、こうして、新聞を見て奇異な感にうたれるのであっ
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