だけのよさ、心のよさ、小心な位のよさを持った彼であったかが感じられた。(写真はどれも大抵きどっていた)
 柩が白い花と六本の小さい蝋燭に飾られ、読経の間に風が吹いて、六つの光が一つ消え、一つ消え、段々消えて、最後まで左右に一つずつの燭が風に揺れながら灯りつづけた。小さい二つの輝は大変美しかった。彼の眼のようであった。その柩の雰囲気と坊さん達の儀式は全然別もので、He went far far away. という心持が迫った。

 駒沢の家へ帰る電車の中で、またも小穴さんのスケッチが眼に泛び、私は腹の底から啜泣のようなものがこみ上げて来て仕方がなかった。告別式場の隅に佇んで、浄げな柩の方を猶も見守っていた時、久米さんが見え、二言三言立ちながら話した。
 簡単な言葉であったが、私はその時今までのごたごたした心の拘りをすらりと抜け、自分がまともな心持で久米さんに物を云い、その顔を見たのを感じた。
[#地付き]〔一九二七年九月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「
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