た、吉さとさ!」
「ほほう!」
徐ろに、笑えて来た。笑いが辛抱し切れなくなり、私は、遂にはははと、腹からふき出した。
何という愉快なことだ! はははは、滅多にそれこそあることではない。当人同士は、けろりとけんかも忘れ、睦じく抱っこ寝んねしている間に、傍のおみささんは娘の手を引っぱって逃げ歩き、とばちりを受けて私まで(たれにもいいこそしないが)一晩中まんじりともしなかったとは! ははは、思えば思う程おかしく、私は人のいない自分の部屋に来、歩きながら腰を曲げて笑いこけた。笑いこけながら、私はしかつめらしく考えた――心理学者にいわせたら、昨夜のような出来ごとに、何という名をつけるだろうか、と。
[#地付き]〔一九二五年七月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
1953(昭和28)年1月発行
初出:「写真報知」
1925(大正14)年7月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全9ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング