日本プロレタリア文化連盟『働く婦人』を守れ!
宮本百合子
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三月六日の日曜日に『働く婦人』発刊記念の夕べを催したことは、読者のみなさんが三月号の『働く婦人』にのった広告によっても承知していられることです。
『働く婦人』は、日本プロレタリア文化連盟から発行される日本でたった一つのわれわれの婦人雑誌です。
一月創刊以来、実に働く婦人の多くから愛読され、支持され、月ごとに雑誌の内容もよくなって来た。『働く婦人』発刊記念の夕べは、こういうわれらの婦人雑誌の誕生と正しい発展とを、みなさんとともによろこぶためばかりではない。折から三月八日の国際婦人デーを前にして、われわれ働く婦人が一つところに集り、いろいろためになる話をきき、また愉快な芝居を見たり音楽をきき、このブルジョア・地主が戦争熱をあおっている日本でも、どんなに大衆の力はもり上っているかを互に知り合おうという楽しい計画がふくまれておりました。三月六日ごろからは世界じゅうで働く婦人たちが国際婦人デーの仕度をはじめます。ソヴェト同盟では、立派な労働者クラブで大規模の催しが持たれる。わたしら日本の働く婦人もこっちで、「働く婦人の夕べ」をその国際的な働く婦人の日の記念にしようと、一生懸命細かく仕度をしたのです。
更にもう一つ、この「働く婦人の夕べ」は、わたしらにとって大切な意味をもっていた。それは三月六日のこの催しが「汎太平洋プロレタリア文化挨拶週間」に、日本プロレタリア文化連盟によって行われるいくつかの催しの一部をなしていたことです。「汎太平洋プロレタリア文化挨拶週間」というのは、日本の勤労大衆を幸福にしようと勇ましく闘って来た、日本共産党員の何千人かが四年前の三月十五日に敵の手に捕えられた、有名な三・一五事件の記念として、アメリカのプロレタリア文化連盟が申し込んで来た文化記念週間です。日本を中心として、アメリカ、中国、フィリッピン、濠州諸国の勤労大衆が一斉にプロレタリア文化の催しをやろう、そして、それぞれの国のブルジョア・地主の政府がめぐらす帝国主義戦争への悪煽動を蹴とばして、プロレタリア・農民の固い握手をとり交わそうというのが目的です。日本プロレタリア文化連盟に加盟する十三の文化団体は、講演会、展覧会、芝居の公演と精力的に参加した。日本では工場で働く婦人の数だけでも男の労働者の四割八分を占めている。そんなに大勢いる勤労婦人のための特別な催しを、この挨拶週間のプログラムから抜くことは出来ぬ。「働く婦人の夕べ」は、この目的のためにも、わたしら働く婦人にとっては忘られない日本ではじめての催しだったのです。
ところが、所管署築地警察署では、「働く婦人の夕べ」の集会届けも余興の興行届けもちゃんと手続を経て受けつけ、許可しておきながら、いよいよその日になって開会の辞を中條百合子が一分ばかり話したら、中止! 解散を命ず! と襲って来た。中條百合子が「今日ここに集っていらっしゃるみなさんを見ても若い方が多い。お婆さんは」と云いかけたら、いきなり中止! 解散! です。すぐ司会者が舞台の上から「集会は解散になりましたが、余興は別に許可されていますから、すぐそちらにうつります。皆さん、帰らないで下さい」と大きな声で告げた。すると築地署の臨監が「公安に害ありと認め興行届認可を取消す」と怒鳴った。まだ歌一つうたいもしないうちに、何が公安に害ありでしょう! 余りいわれない弾圧だ。若い婦人が大部分を占める聴衆は坐席から立ち上りはしたが動こうとはしない。警官がそれを邪険に追い立てて散らしている。
「働く婦人の夕べ」準備委員会はすぐ抗議団として、弁護士布施辰治、司会者等を築地署へ抗議のために送った。高等主任に会い、折から居合わせた警視庁の高等係とも掛け合ったが、彼等は何と卑劣でしょう。自分等が一旦法律に従って許可した余興だけさえ、もう許可はとり消したのだといってやらせない。段々夜の部がはじまる午後六時近くなると、会場築地小劇場のまわりから附近の街角まで巡査が溢れ、よろこび勇んで「働く婦人の夕べ」へとやって来る熱心な若い婦人たちを、一人一人追いかえし始めた。それをくぐって劇場の前へかたまった三十人ばかりの婦人たちは、何とかしてこの待ちに待ったわたしら「働く婦人の夕べ」を闘いとろう、警察へデモをやろう、と代表を選んで提議して来たほどです。
婦人大衆の支持はこんなにまである「働く婦人の夕べ」を、官憲は何故めちゃめちゃに弾圧するのでしょう? その理由は、われわれにとって面白くためになる『働く婦人』が毎号発禁になると全く同じです。「働く婦人の夕べ」こそ本当に働く婦
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