回避のために世界の良心が奮闘しつつある事実。日本の良心と学問の自由のためのたたかい。それらは、もとより学習院の土手を越した。同時に、いまの日本に急速にひろがりつつある不健全な時代錯誤、特権生活への架空な憧れと嫉妬のまじりあったような風潮も、青春の敏感な自意識をむしばみつつある。卑俗な風俗小説のほとんどすべてが、読者の好奇をそそるために、闇の世界とえせ[#「えせ」に傍点]の貴族趣味とをからみあわせて場面をいろどっている。成り上りに対しては、真の貴族であったほこりも甦り、しかしそのような意識を自嘲せずにいられなくする心理もあるだろう。
漱石は、彼の時代の言葉として、権力・金力をもつ境遇のものが、自分で人間らしくそれらを支配する能力として個性の確立される必要を語った。こんにち語られるべきことは何であろうか。それは権力と金力との大半はすでにそれらの人々の掌中においてわがものでなくなっているという事実である。しかも一層華美な、或いは知的めいた擬態をもって、権力と金力とはそれらの人々を通じて、威力をふるいつつある、という正常でない客観的事情についての、正直な認識である。その現実の認識に向って青春
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