紐でしばっておいてある。
 この差入屋の店へ私はあとから入って来たので、今主人が応待しているのは若い女のひとであった。若い女のひとはすっかりよそ行きの化粧と盛装で、白いショールをはずし、それを両手にからみつけるように持って立ち、
「何がよろしいんでしょうねえ、何でもいいっておっしゃるんですよ」
と、ものを書いている主人に、馴れない、すがりつくような様子で云っている。束髪の鬢を乱して黒っぽいコートを着た四十がらみの大きい女がこのひとの伴れらしいが、そのひともショールをはずして膝の上へまるめこみ、沈んだ風で体をねじり、煉炭火鉢に両手をかざして、黙っている。
「サア……何か暖いものがいいでしょうが……」
 主人は顔を下に向けゆっくりと毛筆を運びながら、応答している。
「やっぱり、外であがるようには行きませんでしてね」
「そうでしょうねエ」
 感慨をこめて答えているが、その若い女のひとには、どんな風にそれが外で食べるようには行かないのか、はっきり、具体的に分っているのではないことが口調から感じられる。暫く沈黙がつづいたが、しまいにその女のひとは思案にあまって投げすてたというように、コートにつつ
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