三四五 高根包子宛 本郷区林町二一より(封書)〕

 先日は山からのおたよりありがたく頂きました。お忙しくてもいつも御元気で本当に何よりとおよろこび申しあげます。
 わたくしも五ヵ月がかりの問答が一応終り、むずかしい条件も添わず、けりがつきそうでいくらか気が軽くなりました。
 巣鴨にチフスが流行して、病舎にいて感染いたし、大心配して居りましたが、これも不正型というので熱が低いまま落付き仕合わせ致しました。
 世界の大渦がキリキリと小さな渦巻となって、一つ一つの家庭に波及して参る様はなかなか壮観と申すべきでしょう。
 きょうはおかしな小包をお送りいたします。白粉です。南の方に暮して居る人がおみやげに呉れ、パリのブルジョアのもので、いかにも南向きの箱の色どりですし、なかみも会社が会社ですから一向大したものでないにきまって居りますが、それでもまあ気のかわるだけがお慰みと申す次第です。
 外側のケースに千代紙なんか貼ってしまって益※[#二の字点、1−2−22]妙ですが、これはいつか妹のいたずらで御免下さい。
 粉の白粉は変質したりしないでしょうか、その点も自信ございません。万※[#二の字点、1
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