ージ・ワシントンの邸宅跡の写真絵はがき)〕
此が全体の景色。
今冬枯れで落葉に満ちては居りますが、広大な場所が、古い記憶に満たされて居る心持は、床しゅうございます。
一九一九年八月二十五日[#「一九一九年八月二十五日」は太字](消印)〔東京市本郷区林町二一 中條精一郎宛 レーク・ジョージ(消印)より(レーク・ジョージの写真絵はがき)〕
此間此山に登ろうとしてグランパと二人で出かけました、が、私の非常に大自慢な健脚は、どうかしてすっかり調子を狂わせてしまった。
三分の一位のところで降参してしまった上に胸まで悪くして、すっかりグランパの信用を失ってしまいました。
私の健脚は平地に限るものと見えます。
一九二五年四月[#「一九二五年四月」は太字](推定)〔牛込区馬場下町東光館 富澤有為男宛 小石川区高田老松町五九より(封書 書留)〕
原稿を拝見いたしました。
遠慮なく加筆したところもあり、削ったところもございます。何卒あしからず。
「この頃の若いもの云々」の話、率直に申すと、貴方の仰云った憂鬱感に対して主として感じた座談以上のものでありませんからおやめに致しましょう。
それから、ブランクになって居る対話の部、あすこもやめたいと思います。何だか女学世界のようで私の好みに反しますから。
点とりは、生憎非常に多忙なので、ゆっくりあれで遊んで居られません。勝手ですがあのまま御返し申します。二つの大きな消しは御迷惑でも必ず御削除下さい。
とりあえず御返事申上ます。
[#地から2字上げ]中條百合子
富澤有為男様
侍史
一九二七年八月十九日[#「一九二七年八月十九日」は太字]〔京都市上京区小山堀池町一八 湯浅芳子宛 新町より(封書)〕
十九日午前十一時
もやあさん
もう今頃は、万象館で、借浴衣におさまって居る時分でしょう。いかが? 苦楽園の中は狭くるしいところでしょう。どうせ六甲へ行ったらホテルまで登ってしまえばきっと涼しい、大橋房子の涙痕今猶新なり、だろうけれど。――然しこれをもやーさん読むときは、すべて、かった[#「た」に傍点]なわけね。過去です。加茂で読むんですものね。
昨夜、汽車の中どう? 涼しかって? ポンポ巻き入れとけばよかったと後で智恵が出ました。眠るときの為に。おなかが又冷えやしまいかしら。私共はあれから渋谷まですぐ省線で来たが、エビスのところで、べこがお文公に小さい声で訊くことには、
「おフーちゃん。家までつめたいもの飲まずにかえれるか」
「ダメ」
「では――うまい! 又ミツ豆へ行こうではないか」
どう? 淋しかったし、つけ元気で、道玄坂の長唄氷まで出かけたという有様です。そこで水瓜をたべ、引茶氷というの、お文公の発起でとったが、この引茶は不味。半分もたべなかった。それから角の本やによって、第一書房のをとって、来月の『アララギ』を一冊とらせる注文をして、玉川電車にのりました。暑く、汗が出る、出る。水瓜の汗故、サラサラ流れる。家へついたのは十時半すぎでした。
風呂へ入って、お文ちゃん先へ床につき、自分蚊帖の外へスタンドを引よせ――妙ね、独りになると、皆あれをするのね――ぼんやり、奇麗な蚊帳を見ながら、長く、長く起きて居た。鼠がひどくあばれる。……
ねえ、もやーさん。今度もやーさん出かけてよかった。昨夜出かけてよかった。私も送りに出かけて行ってよかった。昨夜帰って来てから、心持が大分なおって、元気が出たのを感じました。それに、こんどはまるで一人でないから、やはりそれ丈助り、Bed に横わり乍ら、汽車の窓から頭を出し、扇を振って居たもやーの水色の肩を思い浮べても、苦しい程にはならず懐しく、みーらやで、しんみりした心持です。すべて――スタンドの灯で見る蚊帳も、その白さも、柔らかさも、空《カラ》な隣の部屋の歩き心地も、新鮮な感覚でした。一緒に苦楽園へ汗かきに行くより心理的にずっと有効でした。だから、もやーさん、どうぞ御安心。
今日はこれから竹中さんへ上げる随筆をかきます。その位のもの書くに最も適した心持で居る。
斯ういう紙に書くと、巻紙より沢山かくわけね。若しこれが巻紙であったら、もう長い、長い。もやーさん片手で一杯握り切れない位かもしれません。明日、ヴヴノワさんのところへ一寸行くつもりです。それから、若しまだその気があれば Sitting します。
道玄坂の花やで 虎の尾 を買って来た。日本風な名でしょう、ところが花は西洋くさい花です。
[#地から2字上げ]べこ
もやあさん
ポンプ、けさもべこが寝て居るうち、出ない出ないとフーちゃん、貞ベエ、話して居た。――今は出るけれども、水倹約の布告を出しました、今日。
〔欄外に〕
○デーニギ
電報が来るまで待って
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