の前にはあの小鳥の様な新妻の様子がうかんで来る。
一月六日(火曜)晴 暖
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〔摘要〕大瀧氏[#大瀧潤家、叔母(父の妹)鷹子の夫]へ御年始かたがた午後から遊びに行く
〔発信〕成井先生 岡田信一郎 福島祖母君[#中條運、父方の祖母]
〔受信〕曾我ふみ子
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すきだらけな気持で行ってすきだらけでかえって来た。
何となくうすあったかい胞で私はさしぐむ様な気持になって居た。一寸のものにふれてもすぐ涙がこぼれそうな私の心を自分でかわいらしく思った。まだ世間知らずの娘達の様に自分の年の呼び好いのにほほ笑みながらくり返した。
小学校の時の事なんかがたまらなく思い出された。
それから生の事も――そうして私は喜びと悲しみの交ったある感情に純に涙ぐんで居た。ふくふくの枕に頬をおっつけて私はポロポロ涙をこぼして居た。私はまだ若いと云うのを嬉しく思う。
一月七日(水曜)晴
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〔摘要〕「夜」(短詞)、小さな論説。「小鳥の如き我は」(散文詩)を書く。「青い鳥」、「誘惑」を読む。
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「夜」――とにかく私のものとしてはかなり重く出来て居ると信じるけれ共悪い批評をうけてしかめっつらをするほどのものではない。
芸術の尊さについて書いたもので私の初めての試みとしては少しは見られるものだとの批評があった。
「小鳥の如き我は」――モハメットの心を一寸はうけて居るんだけれ共「夜」に似た心持でもって書いたものだ。
「青い鳥」、その空想の生活に密接にふれて居ると云う事や又いかにも考えさせられる科白《せりふ》なり景色なりが多いのに驚く。くり返して読む必要がある、「誘惑」、モウパッサッン特有の婦人を描いて居る。
一月八日(木曜)晴 寒
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〔摘要〕学校始業式 浅草へ行く
「サアニン」を少し読む
(伝説の生んだ現実)を云う題だけを思う、
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何となくさわがしいそのくせすきだらけな本郷のかたい道を私はうつむき勝に歩いた。下らない事ながらこの日初めてあったかるい情なさは私の笑う声をひくくしたりいつもより深いあわれ味の心をおこさせたりした。午後から浅草に行く、茶絵雙紙の心持はいつ行ってものぞく事は出来ない。池のあめんぼうの泳ぐのを雨かと驚いた時のほんのちょっぴりの時間は私にとって詩になりそうなものであった。給仕に出た女もかなり私の気に行[#「行」に「(ママ)」の注記]った。三味線の音をあこがれる様な気にさえなって居た。伝説の生んだ現実と云うのは細井さんの家庭から思いついた事だ。美しいものが出来ないとも限らない。
一月九日(金曜)晴 寒
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〔摘要〕学校出席、お雪ばばあ[#中條家の女中]が来る。
途中にて古橋さんに会う。
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学校に行くと何故こんなかと思うほど平凡にあんけらかんとして日を送ってしまう。けれ共今日はそれ以外に私の心に大変に感じさせられた事があった、けれ共そんな事はなんでもないと思わなければならない。そんな事におしつぶされるより以上の勇気を熱心をもたなければならない。一日中そいでも私は青いかおをして居た。「錦木」も「千世子」も思っては居てもいまだに手をつけて居ない。来週からでもやらなければならないと思う。やり出せば気を入れてするがするまでを出しぶるのは私の何にでもつく癖だ。「錦木」はもっと短かくまとまって色の濃い優しげなものでなければいけない。何とはなしとりとめのない想が私の頭の中に一ぱいになってかえって苦しいほどだ。
一月十日(土曜)晴 寒
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〔摘要〕学校出席
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十二時が打つと学校から帰れるのが私達にはたまらなくうれしい事だ。何か私の胸の中にうごめいて居るもののある様にこみあげる笑いが私の頬に一人手にさし込んで来る、思って居る事をずんずんはこんで行かなければならない、三学期は短かいから学校のあるうちだけはがまんしようかとも思う。一日中の予定行事のうちに何にも出来やしない。
少しやけになるほどはらが立った。しかたがないさ。まあこんな事を思って眼をつぶりながら私は毎日乾いた事に自分の手のあれるのを知って居るばかりだ。ある事はしなければなるまい。
「木枯の走り廻れば骸骨の仮面の恐れ我をすき見す」
一月十一日(日曜)晴 寒
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〔摘要〕弟達有楽座、御両親様本郷座、古橋氏来訪
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冬枯の黄なる日ざしに男の猫は
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