りと私の浴衣の大きな模様と長い袖口から一寸出て居る、ムクムクの手がきれいに見えてました。
このお手紙をかいたのは夜の九時、
私の又と来ない一日は斯うして暮してしまいましたんです、」
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 これだけの日記の先に
 随分暑うござんす事、御変りない事は御たより(先月の)で知ってます。
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「私のこのごろを御知らせしようと思って今日の日記を御送します、大抵は毎日こんな工合にして暮してるんですから……」
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とこう書いておしまいには、
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「前の池の葵はもう咲いたでしょう、あの小っぽけな白い花が大すきなんですからいつかおして送って下さいな。ホラ、去年二人でこの花とりに池に行ったらわきの小川に、蝦《えび》がいっぱい居たんでたもとの中にとってかえって行きには蝦につられてあのこわい丸木ばしを渡ったけど、帰には渡れなくなって遠まわりをしてかえる内に袂の海老があつさにあてられてみんな死んでしまって、笑われましたっけネー。又そんな事を思い出すと行きたくなりますけど、こっちに居て少し勉強しようとも思ってるんでまだ中ぶらんりんな
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