し」
とことわると
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「御前なんか、一日中机にかじりついていたってろくな事は出来るはずがないんだから働いた方がましだ」
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と云われたけれども口惜しいような、一日中机にかじりついてれば立派なことができるように思われたんで机の前にまいもどった。
数学は今まで毎日して来たから今日は休んで、英語と歴史とをさらう。
力抜山気被世 時不利
の詩をいつもよりしみじみとくり返してよんで居たら段々声が大きくなってしまったんで
「それこそほんとうのじゃじゃだ」
と云われたんでびっくりしてゆるんだ口元をたてなおすひまもなくつづけざまに笑われたんでやたらどなってしまった、あとで自分も吹き出すほど御かしい。
それからようやっと落ついてから、こないだのもののつづきを書き「聖書」と「希臘《ギリシャ》神話」を読む。「聖書」なんかは信心しない私なんかには別に有がたいとは感じないけれども「聖書」は一通り知って居なくっては不自由をしますよ、と忠告されたんで先によんだつづきから又よみ始めて居るわけである。
「希臘神話」はいつ見ても面白いものだと思う。本をよみながら一寸首をあげて見るとわきの木ばこの上にのっけてある石膏の娘の半身像のかおが影の工合で妙にいやらしく見えたんで手をのばして後むきにしてしまった。それからインクスタンドの下の方にゴトゴトになってたまって居るのでペンが重くってしようがないんで、気がついたらもう一寸もいやになったんでまだ一寸あったのをすててしまってきれいに水であらって、丸善のあの大きな□□[#「□□」に「(二字不明)」の注記]のびんから小分をしてペンをひたして書いて見ると気持のいいほどかるく動く。
この勢で何か書こうかと思ったけれども何にも出て来なかったから、いろんな雑誌の中から書ぬきをして御ひる前はすんでしまった。
御ひるっから二時頃までは何やら彼やらと下らない事を云ってすごしてしまったので大あわてにあわてて墨をすり筆の穂をつくろって徳川時代を書いた古風な雁皮紙《がんぴし》とじたのと風俗史と二年の時の歴史の本と工芸資料をひっぱり出す。
この徳川時代をひっぱり出したわけは、こないだの夜、父が、ただやたらに本をよみ書きなどして居ても下らないから時代時代を丁寧に親切にしらべて見た方が好いだろうと云われたからその説にしたがって割合にくわ
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