有地の払下げを請願して、成功した幾段歩かの田畑を、着服してしまったというのである。折々、物議の種とならないこともなかったのだけれども、村役場や、小学校などに少なからず寄附したりしていたので、そのままになっていたのを、M老人と個人的な衝突をした者が、腹立ち紛れにというようなことが起因《おこり》であった。一体M老人はすべてに遣り手すぎた。一代にとにかくあれだけの資産を堅めたかげには、多大の犠牲が払われている。威光に恐れて、すくんではいるものの、いざとなれば反旗を翻す連中がずいぶんいるので、事件はますます拡大してしまったのである。利も入れず、高瀬の金を借りぱなしにしていることまで、彼等の攻撃材料になって、訴訟の一部として取り扱ったなら、都合よく運ぶと云われて、孝之進は、原告側の主脳者に、自分が委任されたこと全部を、またまかせることにしたのである。それこれでお咲の帰国は、次第にのびていた。が、さあ明日行くというときになって、年寄達もお咲もその他周囲の多くの者が、或る一つのことを感じ出した。それは最初この話が出たときに、浩が得たと、全く等しいものであった。けれども皆だまっていた。ほんとうに皆だま
前へ
次へ
全158ページ中98ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング