持っている、すべての美くしい魂が、この貧しくきたない部屋の中で、燃え輝やいているように彼は感じた。紫色の陰をもって、丸く小さく盛り上っている瞼のかげで、いとしい、しおらしい姉の心はささやいているようであった。
「ほんとうに、可哀そうな私共! 私達の気の毒な一族……。けれども、今私が死ななけりゃあならないということを、誰が知っているの?」
あやしむような、魅惑的な微笑が、彼女の唇に浮んで、また消えた。
三
お咲の病気は、皆が予期していたより大病であった。手後れと、無理な働きをしたのが、一層重くさせていた。骨盤結核という病名で、お咲は神田のS病院に入院して手術を受けたのである。
このことを知らされた国許の親達は、非常に驚いた。まさかこれほどまでになろうとは、誰も思っていなかったので、暫くは何をどうして好いやら、途方に暮れたような様子であった。
孝之進は、娘の病気などには、少しも乱されないように、強いて心を励ました。死ぬのではあるまいかという不安。どうかしてなおしてやりたいものだという心持などが、追い払ってもしつこくつきまとって心から離れなかった。八人も生れた子は
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